「あいつがターゲットじゃな」
あいつについて調べてきちゃる、と言い残して仁王は消えていきました。
残された赤也はぼんやりとその人間を見ていました。

(きれいな、ひとだな)

「……俺に何か?」
あまりにじっと見ていたからでしょう、視線に気づいたそのひとは赤也を振り返ってそう言いました。
「あ、」
「お前……?」
そのひとは不思議そうに首を傾げます。どうやら赤也の背の黒い羽を見つけたようです。
「お、俺、悪魔なんです!」
「……?」
「いや、まだ見習いなんス、けど……」
赤也が小さく言うと、そのひとはくすりと笑いました。
「面白いことを言う子だな。悪魔の見習い?」
「あ、ウソだと思ってるでしょ!」
「そんなことはないが……」
「じゃあ証拠みせますよ。ほら!」

赤也が空に手をかざすと、空からはらはらと雪が舞い降りてきました。
「お前がやったのか……?」
「そッスよ!これで信じた……くしゅん!」
冷たい雪が赤也の身体を冷やしてしまったようでした。
「そんな格好では寒いだろう」
「悪魔に寒さなんか関係な……」

「ほら」

 

 

「あったかいだろう?」

 

 

そのひとが赤也の首に巻いてくれたマフラーからは、とてもいい匂いがしました。
「お前の名前は?」
「……赤也、ッス」
「では赤也、これはお前にあげよう」
立ち去ろうとするそのひとに、赤也は慌てて声をかけました。
「あんたの名前は?」
「柳、だ」
「じゃあ柳さん、ひとつだけ質問!」
赤也は一瞬ためらって、でも覚悟を決めて尋ねました。
「柳さんがいちばん幸せだと思うことって何?」

『一番最初に出会った人間を、もっとも不幸な人間として地獄に引きずり落とすこと』。
柳は赤也が初めて出会った人間。彼のことを不幸にするのが赤也に与えられた課題なのです。
不幸にするには、彼が幸せだと思うことの反対のことをしたらいい、赤也はそう考えたのでした。

「そうだな……」
柳は少しだけ笑ってこう言いました。
「探しているものが見つかったら、幸せになれるのかもしれない」
「……探しているもの?」
「そう。ずっとずっと探しているもの。そしてたぶん、もうこの世界では見つからないものだ」

 

 

 


 

「本当はあまり手助けしたらいかんのじゃ。幸村には秘密やからな?」
柳が去ったあとに戻ってきた仁王は、赤也にこっそり教えてくれました。
「あの人間には、ずっと昔に行方不明になった恋人がおるらしい」

 

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