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そのひとが赤也の首に巻いてくれたマフラーからは、とてもいい匂いがしました。
「お前の名前は?」
「……赤也、ッス」
「では赤也、これはお前にあげよう」
立ち去ろうとするそのひとに、赤也は慌てて声をかけました。
「あんたの名前は?」
「柳、だ」
「じゃあ柳さん、ひとつだけ質問!」
赤也は一瞬ためらって、でも覚悟を決めて尋ねました。
「柳さんがいちばん幸せだと思うことって何?」
『一番最初に出会った人間を、もっとも不幸な人間として地獄に引きずり落とすこと』。
柳は赤也が初めて出会った人間。彼のことを不幸にするのが赤也に与えられた課題なのです。
不幸にするには、彼が幸せだと思うことの反対のことをしたらいい、赤也はそう考えたのでした。
「そうだな……」
柳は少しだけ笑ってこう言いました。
「探しているものが見つかったら、幸せになれるのかもしれない」
「……探しているもの?」
「そう。ずっとずっと探しているもの。そしてたぶん、もうこの世界では見つからないものだ」
「本当はあまり手助けしたらいかんのじゃ。幸村には秘密やからな?」
柳が去ったあとに戻ってきた仁王は、赤也にこっそり教えてくれました。
「あの人間には、ずっと昔に行方不明になった恋人がおるらしい」
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