――海でな、ふたりして波に攫われて
――見つかったのは、あの柳だけじゃったらしい
――その後何度も海に入っていこうとして
――恋人を、追いかけて

でもあのひと、笑ってたッスよ?

――笑っとる奴が幸せとは限らんからな

 

(なんだ、じゃあもうあのひとは不幸なんだ)
(俺の出る幕、ねーじゃん)

 

 

 

それから赤也は柳に会いに行くようになりました。
どうしてなのかはわからないけれど、ただ、あの優しい笑顔に会いたいなと思うのでした。
何をするわけでもありません。ただ柳がくれたマフラーを巻いて家を訪ね、柳と話をするだけ。そんな赤也を、柳はいつも「おかしな子だな」と言って笑顔で迎え入れてくれるのでした。

 

そんなある日。いつものように赤也が柳のところに遊びにいくと、柳は大事そうに何かを抱えていました。

 

 

「それ、何スか?」
「ポインセチア、というんだ。もうすぐクリスマスだからな」
「クリスマス……」
「ああ、神様が生まれた日だそうだからな。悪魔の赤也はあまり好きではないか?」
「……」
赤也の胸はちくりと痛みました。その悪魔になるためには、自分が何をしなければいけないのかを思い出したのです。
「昔、」
柳は何か大切なものを思いだすように言いました。
「ある人が俺にくれたんだ。クリスマスといっても何をあげたらいいのか思いつかないから、と言ってな。ポインセチア、という名前すら知らなかったらしい」
馬鹿な奴だ、と柳は笑いました。

ある人。
それは、いなくなってしまったという恋人のことなのかな。

「でも、好きだったんでしょ?」
赤也は思わず尋ねました。
「……、好きだったよ」
柳は素直に答えました。
「ねえ、柳さん」
「なんだ?」
「前に、探しているものが見つかったら幸せになれるのかもしれないって言ったよね?」
「ああ」
「それはもうこの世界ではみつからないものだって言ったよね」
「……ああ、言ったな」
「もし。本当に、今その探しているものが見つかったらどうする?」

柳はしばらく考えて言いました。
「もしかしたら、」
「もしかしたら?」
「本当は見つからないほうがいいのかもしれない」
「……どうして?」
「もう一度失くしてしまうのが、とてもとても怖いから」

 

 

 

仁王が赤也に教えてくれたことは、もうひとつありました。
――その恋人は、実は生きとるらしい。
――しかも、過去の記憶はすっかり忘れてな。

 

会いにいってみよう。
赤也はそう決めました。

 

 

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