「それ、何スか?」
「ポインセチア、というんだ。もうすぐクリスマスだからな」
「クリスマス……」
「ああ、神様が生まれた日だそうだからな。悪魔の赤也はあまり好きではないか?」
「……」
赤也の胸はちくりと痛みました。その悪魔になるためには、自分が何をしなければいけないのかを思い出したのです。
「昔、」
柳は何か大切なものを思いだすように言いました。
「ある人が俺にくれたんだ。クリスマスといっても何をあげたらいいのか思いつかないから、と言ってな。ポインセチア、という名前すら知らなかったらしい」
馬鹿な奴だ、と柳は笑いました。
ある人。
それは、いなくなってしまったという恋人のことなのかな。
「でも、好きだったんでしょ?」
赤也は思わず尋ねました。
「……、好きだったよ」
柳は素直に答えました。
「ねえ、柳さん」
「なんだ?」
「前に、探しているものが見つかったら幸せになれるのかもしれないって言ったよね?」
「ああ」
「それはもうこの世界ではみつからないものだって言ったよね」
「……ああ、言ったな」
「もし。本当に、今その探しているものが見つかったらどうする?」
柳はしばらく考えて言いました。
「もしかしたら、」
「もしかしたら?」
「本当は見つからないほうがいいのかもしれない」
「……どうして?」
「もう一度失くしてしまうのが、とてもとても怖いから」
仁王が赤也に教えてくれたことは、もうひとつありました。
――その恋人は、実は生きとるらしい。
――しかも、過去の記憶はすっかり忘れてな。
会いにいってみよう。
赤也はそう決めました。