「その、だから、赤い花なんです」
「ですからお客様、それだけではこちらも……」

何やら話し合っているらしい大きな声が聞こえてくるのはその街の花屋からです。
「名前はわからないんですか?」
「それが、どうもそういったものには疎くて」

「どうかしたんスか?」

困っているらしい、帽子をかぶった男の後ろから赤也は声をかけてみました。

 

 

「手伝いましょうか?」
「う……うむ。欲しい花があるのだが、名前がわからんのだ」
「欲しい花?」
「ああ。見たらわかると思うんだが」
「名前もわからないのに欲しいんですか?」
「ああ。……何故か、それを買わなければいけないような気がしてな」

 

(買わなければいけないような、気が)

――クリスマスといっても何をあげたらいいのか思いつかないから、と言ってな。

(もしかして)

「それって、あれじゃないッスか?」
赤也が指差したのは、店のすみに置かれた小さな鉢植え。

 

 

「そうだ、これだ!」
「ポインセチア、っていうんですよ」
「ポインセチア……」
男は何度もその名前を、小さく呟いています。
「知ってました?」
「知らないはずだが……何か、知っていたような気もする」
赤也はそんな男を、じっと見つめていました。

 

 

 

「お前のおかげで買うことができた。礼をしよう」
ポインセチアを腕に抱えての帰り道、男は赤也にそう言いました。
「礼なんかいいッスよ!」
「いや、それでは俺の気がすまない。……ところでお前のその格好は一体何なのだ」
男は赤也の背の羽を見ながら言いました。
「お洒落ッスよ。今街ではこういうのが流行ってるんス!」
「……そういうものなのか?だがそれにしてもその格好は寒そうだぞ」
「大丈夫、ですって」

 

 

「仕方がないな、これでどうだ」

 

 

男がかぶせてくれた帽子はぶかぶかでした。
「ちょっと大きいッスよ……」
「ないよりはましだろう。ちゃんとかぶっておけ」

赤也はなんだか、泣きたいような気持ちになりました。

 

男の名前は真田弦一郎。
柳の恋人だったのだと、仁王が教えてくれた人でした。

 

 

 

top/next