「ねえねえ、柳さん」
「ん?」
「柳さんは寂しくないんスか。悲しくないんスか」
「どうして?」
「だって、大切なものがみつからないのに」
どうして笑えるの?

「……こんなふうに、傍にいてくれるひとがいるからだろうな」
「こんなふうに?」
「寂しくないか、悲しくないか、気にかけてくれるひとたちがいるから」
そう言って、柳はまた柔らかく笑いました。
「赤也は優しいな」
「俺は、」

「ありがとう」

 

 

柳に触れられると、赤也の心はぎゅうっと苦しくなるのでした。

(柳さんの笑顔はとても綺麗だけれど)
(でも、とても悲しそうだ)











「赤也」
柳の家を見渡せる屋根の上。すっかり赤也の居場所になってしまったそこで真田にもらった帽子をぼんやり見ていた赤也に声をかけたのは、仁王でした。
「仁王さん」
「幸村がの、調子はどうかと聞いてきよったぞ。そろそろ課題を終わらせてね、だそうだ」
「……」
「お前さんが、毎日ターゲットに会いにいっとることは報告しておいた」
「……」
「何をしに行っとるのかは言わんかったけどな」
忘れてはおらんやろうな?と仁王は言いました。
「お前さんがしなければならんのは、あの人間を不幸にすることじゃろう?」
「わかってるッス」
「できなかったらどうなるかも、わかっとるんやろうな?」
「……わかってるッス」
「わかってなかろ」

「わ!」

仁王が呪文を唱えた瞬間、柳にもらったマフラーから炎が上がりました。

「あちっ!」
「どうだ?」

おそるおそる赤也が目をあけると、もうその炎は消えていました。
「お前さんを焼く炎の熱さは、こんなもんやないけえの」
「……」
「俺もできれば、そんなことはしたくないんじゃ」

 

 

仁王は赤也の顔を覗き込んで言いました。
「天使をやめて悪魔になるんじゃろ?」
「……ッス」
「悪いことはいわん。はやく手を打つんじゃ」
「手……」
「絶好のモチーフがあるじゃろ」
仁王は笑いました。
「一度失って、やっとみつけたものをまた失うこと。それであの人間は、不幸になれる」

 

赤也は何もいえませんでした。

 

 

 

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