クリスマスは神様が願いをかなえてくれる日
届かない想いを届けてくれる聖なる日
「ポインセチアはクリスマスの花なんスか?」
「そうだな。”聖なる願い”という花言葉を持つそうだ」
聖なる願い。
赤也は愛しそうにその花を撫でている柳を見つめて言いました。
「柳さん」
「なんだ?」
「柳さんはクリスマスに何を願うの?」
「さあ?」
柳は笑います。
「じゃあ赤也はどうなんだ?」
「え、」
「何でも願いが叶うとしたら、何を願う?」
赤也は神様の怒りを買って追放された天使。
願いが叶うはずなどありません。
(だけどもしも)
(もしも、願いが叶うのなら)
(俺は)
見上げると、優しくて悲しい、柳の笑顔。
(そうじゃなくて)
(俺が見たいのは)
(ほんとうの、)
「柳さん」
「ん?」
「俺、悪魔なんス」
「……知っているが?」
「悪魔の役目は、人間を不幸にすること」
「……赤也?」
言って赤也は、柳の手をその両手で握りました。
「俺の仕事は、最初に見た人間を、一番不幸な人間として地獄に引きずり落とすことなんです」
「……それは、俺なのか?」
赤也はただ、柳の手を握る自分の手にそっと力を込めました。
冷たい手。
「そうか」
柳は穏やかに言いました。
「もう俺には、何が幸せで何が不幸なのかなんてわからないが」
「柳さん」
「でもこうしてお前と出会ったことに何か意味があるのなら、俺はそれに従うよ」
ふわり、と、まるで花のつぼみが開くかのように柳は笑い、そして目を閉じました。
「ありがとう」
「……え、」
「だってお前が連れていってくれるんだろう?」
ここから連れ出してくれるんだろう。
この、ひとりぼっちの世界から。
(違うよ、柳さん)
赤也は泣きたくなりました。
「……俺は馬鹿だから、何が幸せとか何が不幸とか、そんなこと教えてあげられないけど。難しいことはいいんです」
そんなに寂しく笑わないで。
「ただひとつだけ」
「赤也?」
大きく息を吸い込んで、赤也は言いました。
「柳さんが何も怖がらずに」
大好きな人にもう一度会いたいと、そう思うのなら。
あなたのほんとうの笑顔が見たいんです。
「それが俺の願い」
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