神 様 も 知 ら な い 午 後

 

 そこにいたやつらは、おれを見てみんな同じように黙った。絶句、っていうんだっけ。言葉が出てこないくらい驚いた、みたいに。
 だから、何なんだよ!
 おれがイライラしていると、眼鏡をかけた背のひょろっと高いやつが、やっと、って感じで口を開いた。
「…他人の空似っていうんも、限界あるよなあ…」
 関西弁だ。そいつは腕を組んでじっくりとおれの顔を見て、それから「これはあかんわ」と言った。おれはなんかちょっと怖くなって、すぐ後ろにいたシシドを振り返る。シシドは「な?」と言って笑うだけだった。


 シシドにご飯に連れていってもらった後(マックだった。信じられねえ、いい大人なんだからもっといいとこに連れていけよって文句言ったら、また大笑いされて生意気言うんじゃねえって小突かれた。むかつく)連れてこられたのは、学校だった。氷帝学園。名前は知ってる、すごいテニスの名門なんだよな。できればここの中等部行きたいとかってこっそり思ってたところだったから、嬉しかったのは嬉しかったんだけど、中を見て回ろうとする間もなく部室みたいなとこに連れてこられて、中にいたシシドの友達らしいやつらに一気に取り囲まれてしまったのだった。


「なんか、びっくりしてんじゃね?」
 いきなりこんなとこ連れてこられたら驚くよなー、って言って、さっきの眼鏡のやつの隣にいたふわふわの金髪をしたやつが、手を伸ばしてきておれの髪をくしゃってした。おれは普段、他人に触られたりするのは大嫌いなんだけど、そいつの触り方は全然嫌じゃなくて、なんとなく触られるままそいつを見上げた。おれの髪も結構茶色いほうなんだけど、そいつの髪は根元まで金色に近い茶色だった。天然なのかな。
「ほくろの場所も同じだ…」
 男のくせにおかっぱみたいな髪型のやつが近づいてきて、おれの前にしゃがんでじっと顔を見てきた。
「お前、いくつなの?」
「10歳」
 シシドにも聞かれたな。そう思って答えると、おかっぱのやつはなんか複雑そうな顔をして立ち上がった。
「計算は合いますね」
 少し後ろから、キノコみたいな髪型のやつが腕を組んだまま言った。その横にいたフランケンシュタインみたいなデッカイやつが、ウス、って言って頷く。
 こいつらは何の話をしてるんだ?
 わけがわからなくて、部屋を見回す。部屋のすみにテニスボールが入ったかごが置いてあって、ここがテニス部の部室なんだってことはわかった。ああ、シシドはここの出身だったりすんのかな。
 振り返ってみると、棚の上に写真が飾ってあった。
「……」
 古びた、埃を被った写真立ての中にあった写真には、ユニフォームを着た選手らしい人たちが映っていた。みんな、笑顔じゃなかった。怒ったみたいな顔だったり、泣きそうな顔だったり。試合に負けたときとかに撮ったのかもしれない。
 よく見てみると、目つきの悪い見覚えのある人間がひとり。今よりだいぶ若いけど、これ、シシドだ。あ、おかっぱのやつもいる。フランケンも金髪も眼鏡もキノコも、あと、これ……。


「懐かしい、ですか?」
 おれのすぐ上から声が降ってきた。優しい声。さっきおれのまわりでいろいろ言ってたやつらのちょっと後ろから、じっとおれを見てた背の高いやつだ。またおれが見たことないような、銀色っぽい色の髪をしてる。
「また会えるって思ってました」
 おれの隣にしゃがんで、そいつはおれの肩を抱いた。てか何でこいつはおれに敬語なんだろう。また会える?多分、会ったことなんてないと思うんだけど。
 顔を上げると、そいつはちょっと泣きそうな優しい笑顔をおれに向けて言った。


「おかえりなさい」

 

 

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